宅建試験の勉強を通じて、日常生活で役立つ民法の知識を解説しています。
宅建士試験まで約3ケ月前になれば暑い(勉強が熱い!)夏です。
少しでも涼しく感じられる様に、今回の宅建と民法は、水族館のイルカを例に解説してみます。
以下、ある水族館で起こった代理の問題
夏休みは水族館も稼ぎ時で、毎日のように屋外でイルカショーが開催されています。一頭のイルカAは、炎天下のなかで一日中、芸をするのが嫌になりました。
そこで休暇中のイルカBに、自分の代理でショーに代わりに出てくれる様に頼みました。
(イルカが何十頭もいる経営に余裕のある水族館では、イルカの保護のためにシフト制でショーに出演しています。)
Bは、代理でショーに出る代わりに、本来Aがショーで受け取るはずの報酬の魚を全部代わりにもらう事を条件に快諾。
しかし、Bも炎天下で芸をするのが嫌で、何と別のイルカCに自分の代理でショーに出る様に、Aの許可も得ずに勝手に依頼しました。
Cも休暇中でしたが、Bの報酬(本来はAがショー出演で貰うはずの報酬)の9割を貰うことでBと合意。
BはAとCの間に入り、仲介料として報酬1割分の魚を中抜きします。Aはこの事を全く知りません。
(同じ水槽の中で何やっとんや!トレーナーは気づかんのか!とのツッコミは無しで、、)
Cは、BはAから交渉を任された代理人であると思い、ショーの後でBを通じて、Aの報酬の魚は確実に貰えると信じていました。
ところがCはショーで大失敗して、水族館の評判を落とす損害を与えてしまいます。
さて、この時の失敗はイルカA、B、Cのうち、誰の責任になるのでしょうか?
(通常はイルカの雇い主である水族館の責任ですが、イルカが責任を取ると仮定した場合)
この続きは下記の本文で、、、
水族館のイルカの例に置きかえれば「権利関係の代理」は簡単に頭に入ります!
Contents
【宅建と民法】権利関係の代理とは
宅建士試験の権利関係で出題される「代理」とは、具体的にどういう契約でしょうか?
代理とは
他人(代理人)が本人のために相手方に対して独立して意思表示することによって、本人が直接に法律効果を取得する制度である。
すなわち、普通なら「法律行為をする者」と「効果(効力)を受ける者」とは同一人であるが、代理の場合は、これが別々の人というところに特色がある。
(参照:「2018年パーフェクト宅建 基本書」より)
代理権には2種類あります。
「任意代理(にんいだいり)」と「法定代理(ほうていだいり)」です。
2つはそれぞれ代理権の範囲と制限が違います。
任意代理の場合:その授与行為がどこまで含んでいるかで決定
法定代理の場合:代理権を定めた民法の規定により決定
任意であれば、範囲と制限はお互いが決めますが、法定の場合は、民法の規定で決められた範囲になります。
任意代理
本人が代理人を選んで、その者に一定範囲の代理権を授与する場合を任意代理といいます。
これは、委任契約にあたり授与される場合が多く、「委任による代理」と称されることもある。また雇用契約や請負契約の際にも与えられることもあります。
今回の水族館のケースでは、イルカ自身が自分で代理のイルカを選んでいるので、任意代理になります。
法定代理
本人の信任を受けて代理人となるのではない代理のことを法定代理といいます。
本人以外の人の協議指定により定める場合、あるいは裁判所が選任する場合などがあり、親権者や後見人が法定代理人になります。
イルカの後見人?にあたる飼育係かトレーナーが水族館の中で協議して、ショーに出る代理のイルカを選ぶ場合は、法定代理になります。
復代理(イルカC)の行為効力は本人(イルカA)に及ぶか?
Aの代理のBに雇われたCは、復代理人(ふくだいり)の立場になります。
代理人がさらに代理人として選任し、その代理権限内の代理行為を行わせることを復代理といいます。
また代理人自身が選任した代理人を復代理人と呼びます。
この復代理の行為責任は下記になります。
復代理人は、あくまでも本人の代理人であって、代理人の代理人ではない。
(参照:「2018年パーフェクト宅建 基本書」より)
補足解説:復代理人(C)は、あくまでも本人(A)の代理人。代理人(B)の代理人ではない。
ここのポイントは、CはBが雇った代理人であったとしても、復代理人Cの行為の効力(ショーの失敗)は、直ちに本人(Aの責任)に及ぶことです。
しかし、これでは善意の(何も知らない)Aが責任を取らされるので可哀そうです。
民法では復代理は勝手に選べないように定められています。
復代理の選任の条件
代理人は復代理人を自由に選べるかどうか?は、Aに雇われた代理人Bの立場で決まります。
イルカBが「任意代理」と「法定代理」のどちらで雇われていたか?で異なります。
-
任意代理人の場合
・原則として復代理人を選任できない。
・本人の許諾を得たとき、又はやむ得ない事由(例えば、代理人が急病で入院してしまったとき)は例外的に選任できる。
今回のイルカBは任意代理でしたよね。
しかしBはAには何も許可を得ずに勝手にCをショー出演の代理に選んでいます。
よってCの復代理は有効ではありません。イルカAには責任は及びません。
-
法定代理人の場合
・代理人が自由に自己の責任を持って復代理を選任できる。
・復代理人の行為の結果については、原則として全責任を負う必要がある。
もし、水族館で後見人の立場になるトレーナーが協議してイルカを選ぶと法定代理です。
その場合は、トレーナーは自由に代理のイルカを選んでも問題はありません。
しかし、その場合はイルカCの失敗はトレーナーの全責任になります。
(現実の水族館では、飼われているイルカが責任を取らないですよね(笑)法定代理人の場合と同じだと覚えてください)
無断で復代理を決めたイルカBは、無権代理になる!
代理権がないにもかかわらず、代理人と称して行われた行為を無権代理といいます。
今回、イルカBは、代理権がないのにAの代理人であると称し、Aの報酬(ショー出演で貰える餌)をCに9割あげると勝手に約束していました。
また表見代理が成立するような特別な事情もないです。
表見代理(A本人に権利が帰属する)場合
表見代理とは、無権代理人による行為を代理権がある普通の代理とまったく同じに扱ってしまうという制度です。
本人(A)に効果が及ぶことを認める(責任が及ぶ)、無権代理の形態である事を表見代理といいます。
表見代理は、下記の条件がないと認められません。
・本人(イルカA)と無権代理人(イルカB)の間に、外観上、相手方にとって代理権の存在を信じさせるような特別な事情がある。
・相手方が善意・無過失である場合。
今回イルカCはショーを失敗する過失を犯しています。
しかもBが中抜きしていた事実を知っていた(善意でなく、悪意)の可能性もありますので、表見代理にはなりません。
表見代理が成立する場合
・本人Aが第三者(相手方)Cに対し、ある人Bに代理権を与えた旨を表示したが、実際には与えていなかった場合。
・一定の代理権を有する者が、実際の代理権の範囲を超えて代理行為を行った場合
例) 金銭の借入れと抵当権の設定契約の代理権を与えられた代理人が、その目的物件を売却してしまった場合。(やり過ぎた場合)
・代理権の消滅後に、なお代理人として行為をおこなった場合
無権代理人は相手方に対し責任を負う
相手方(イルカC)の過失責任はどうなるのでしょうか?
無権代理人(イルカB)は責任を負うべきでしょうか?
無権代理行為について無効と確定した場合は、相手方に対し、契約の履行または損害倍賞の責任を負わなければならない。(117条1項)
今回の無権代理は無効です。
よってイルカBは責任を負わなければなりません。
しかし下記の場合は責任を負わないくてもよいことになっています。
相手方が無権代理である事を知っていたか、また過失によって知らなかった場合、または無権代理人が制限行為能力者であったときは、責任を負わなくてもよいことになっている(同条2項)
無権代理を知っていた、または有過失の相手方は特に保護する必要がないという考え方です。
しかし、通常の判断能力が無い制限能力者は責任を負わずに済むように保護はされています。
イルカCはイルカBが無権代理人である事は知りませんでした。
しかし、確認をとらないなどCに過失があった可能性もあります。
無権代理でも追認すると有効になる
無権代理人が本人のためにすることを示して売買などの法律行為を行っても、本人に何ら効果が及ばない。(113条1項)
しかし本人が無権代理人の行為を「それでよい」と考えて追認すると、その契約の時にさかのぼって有効な代理行為として扱われる(116条)
ポイント:追認すると無権代理も契約時までさかのぼって有効!
もしイルカAが、後でBがCに代理を頼んだ事を承認するとすると、ショーが始まる前まで遡ってBとCの代理契約は有効になります。
追認するかどうか?の催告ができる
相手方は、無権代理人の行為について、本人に対して追認するかどうか?を確かめる事ができます。
相手方は相当期間を定めて、その期間内に追認するかどうかを確答せよと本人に催告できます。
もしこの期間内に本人が確答しない場合は、追認を拒絶したとみなされます。
なお「相当な期間」とは、かなり長い期間という意味ではなく、通常は一週間か10日であれば、相当な期間とみなされます。
「追認」とは、後で認めるという意味なので、「追認を拒絶」する事は、認めない事になります。
よってイルカAはBから追認を催告されても、無視し続ければ、追認の拒絶の意思表示になります。
代理行為のルール
イルカAのように、今後トラブルに巻き込まれないために、代理で決められているルールを紹介します。
1)顕名主義(けんめいしゅぎ)
2)代理人の能力
3)代理行為の瑕疵
4)委任状について
上記の4つのルールを簡単に説明します
顕名主義
代理人が代理行為をするときは、本人のためにすることを示さなければなりません。
本人の名前を顕らかにする事を顕名主義といいます。
例えば「代理人イルカB」を「イルカA代理人イルカB」など具体的にすることです。
そうでないと、相手方にとってその者が誰の代理人であるか?わからないからです。
代理人の能力
代理人は行為能力者であることを要しない。
制限行為能力者でも代理人になることはできます。
それは、代理行為の効果は、直接依頼した本人に帰属するからです。
代理人には利益も不利益も生じないので、精神的能力の低い者を保護する目的の制限行為能力者制度を適応する必要がないからです。
制限行為能力者制度についての詳しい解説はこちらから
* 参考記事:「宅建士になるための過去問解説:【権利関係】制限行為能力者「成年後見制度」を知らないと怖い実例から学ぶ」
代理行為の瑕疵
代理行為は、代理人が行った意思表示です。
過失があるかどうかなどの事実は、本人ではなく代理人にそれがあるか?で判断されます。
もし、代理人が詐欺や強迫を受けた場合の取消権をもつのは、原則的には本人です。
その理由は、代理人の行為の効力が及ぶのは本人だからです。
しかし、代理人に取り消しの権限までが与えられている時に限り、代理人も取り消すことができます。
代理人のイルカBは、依頼者のイルカAから取り消しの権限を貰っていない限りは、Aと水族館の間で結ばれたショーの契約を取り消す事ができません。
委任状について
代理行為が有効となるためには、委任状が必要ではありません。
代理関係の成立時に委任状の書面が提出される事が多いのですが、それは単に証拠を残すためです。
法律上、それがないと代理関係が成立しないわけではありません。
今回のイルカ達の代理契約も、口頭だけでも成立していたことになります。
自己契約と双方代理は禁止されている
下記の行為は禁止されています。
自己契約;自己の法律行為について相手方の代理人となる
双方契約;一人の代理人が契約の当事者双方の代理人となる
上記に違反した場合は、無権代理行為として扱われます。
この場合は、原則として本人に対して効力が生じないです。
しかし例外もあります。
本人が同意したり、あるいは債務の履行のように既に決定されている事項を遂行するというような場合は、本人の利益を害するおそれがないため、有効にできるものとされている。
過去問解説まとめ:代理
今回は水族館のイルカの話でしたが、土地売買などで代理が契約を行う事があります。
代理者が当事者の代理で契約行為をする場合は、相手方になる人は注意が必要です。
上記では、民法上では、委任状がなくても代理契約は成立すると説明はしましたが、現実では委任状の確認は必要です。
その理由は、契約は最終的に契約書に署名押印する契約当事者以外が、署名押印をしても何の効力も持たないからです。
代理人と証する相手方が、当事者から権限の委任を受けていることを証明できない限りは、契約書に調印しない方が、後々トラブルにはなりません。
またイルカCのように、餌につられて安易に代理を引き受けるのも考えものです。
イルカBから代理で仕事を引き受けると、Cは復代理(代理の代理)になるので、Aの代理人でしかないBの言葉だけを真に受けては危険です。
Cは仕事を請ける前に、ショーを失敗した場合の責任の所在、Bの権限など(無権代理人かどうか?)まで確認をしておくべきです。
(余談)結論A、B、Cのどのイルカの責任になるのか?は今回の場合は、Aの責任ではない事は明白なので、B、Cの両者で責任負担を話し合う事になりそうです。
しかし最終的に水族館では、イルカ達は誰も責任を取らされず許されました。(責任能力がない動物達なので当たり前ですよね、、、)
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