最近、痴呆症などで判断能力がなくなった高齢に対して適用される「成年後見制度」の利用者が増加しています。
そのため、後見人に指定される専門家(弁護士,司法書士など)の仕事が増えているそうです。
理由は、後見人なると契約が月額報酬制になるので、安定した収入を得やすくなるからです。
この「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」は、全国でトラブルが多発し、裁判の訴訟問題にまで発展した事例もある!?最近、何かと話題の多い制度です。
ここで問題ですが、後見人制度の不正の被害額はどれぐらいあると思いますか?
成年後見人の不正は2014年には831件、被害額は56億円余りにのぼった。こっそりお金を流用するのは親族だけでなく、弁護士も。
(参照:朝日新聞 2018年7月11日より)
56億円は2014年の被害額なので、2018年の現在は更に拡大しています。
実は宅建士の試験でも、この成年後見制度に関係する「制限行為能力者」は、毎年出題される重要な内容です。
今回は、「制限行為能力者」、その「行為の効力」と「相手方の立場を考慮した制度」を宅建の過去問と一緒に解説していきます。
宅建士の試験勉強をしていても、法的代理人や成年被後見人などの制度は、自分達には無関係だと思いがちです。
しかし、身内が判断能力が無くなる状態になり、もし財産が絡んでくると、急に身近な問題になります。
将来自分や家族を守るためにも、制度の内容は少しでも知っておく必要があります。
特に高齢の両親などを持つ人に、今回の記事が法律のミニ知識になれば幸いです。
Contents
宅建士の過去問解説:制限行為能力者とは?
「制限行為能力者」とは、下記にあてはまる人になります。
自己の行為の結果を合理的に判断する能力がないか、または不十分であるため、単独では完全な法律行為(契約など)を行うことができないと法律が決めたも者をいう。
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
単独で完全に有効な法律行為を行うことができる資格のことを「行為能力」と言います。
「制限行為能力者」とは、この行為能力について一定の制限がかけられ、代わりに代理人が行為を行います。
判断能力の低下の重軽症度によって4つの種類に分けられています。
・未成年者
・成年被後見人(せいねんひこうけんにん)
・被保佐人(ひほさにん)
・被補助人(ひほじょにん)
民法の根本は、弱者の保護を目的としています。
判断能力が低い、または正しい判断ができない人が、もし契約行為をすると損害を受ける事がありえます。
その様な人達が不利な立場にならない様に、民法では、該当者を一律・画一的に制限行為能力者と決めます。
この制度の目的は、法律で取引に制限をかける事により、取引の安全性を確保しています。
この章では、「制限行為能力者」の4種類について順番に解説していきます。
各制限行為能力者が単独でできる事とできない事、また取り消しの条件などは、それぞれ異なりますので、整理して覚えて下さい。
制限行為能力者①:未成年者
両親の保護下にある未成年者は、基本的に制限行為能力者に該当します。
・未成年者とは、年齢20歳未満の者をいう。
・正式な婚姻によって、20歳未満でも成年者すなわち行為能力者として扱われる(753条)
・なお民法上、男は18歳、女は16歳になれば婚姻することができる。(731条)
・後見人の複数の選任は可能
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
【能力】
原則:法定代理人(親権者、未成年後見人など)が同意する、
又は法定代理人が代理で行う特定の行為だけ単独でできる。
法定代理人の同意がない、未成年が単独で行った法律行為は、取り消しが可能。
ただし、婚姻すると成年とみなされるので、自由に法律行為を行う事ができます。
その場合は「未成年者の法定代理人の同意がない事」を理由には、取り消しができません。
制限行為能力者②:成年被後見人
制限行為能力者の中でも、最も重い障害があると規定されているのが、成年被後見人です。
成年後見人に指定される人は、全て財産の管理を代理で任されるなど権限が強いです。
しかし、不法な行為をする後見人などが居るなど、問題が指摘される事例もあります。
・成年被後見人とは、精神上の障害により、事理を弁識する能力(=判断能力)を欠く状況にある者で、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者をいう(7条)
・成年被後見人を保護する者を成年後見人といい、家庭裁判所が後見開始の審判の際に、これを選任する。(8条)
・後見人の複数の選任は可能
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
【能力】
原則:成年被後見人の財産上の行為は、成年後見人が代理で行う(859条1項)
単独でできる行為はない(例外:日用品の購入その他日常生活に関する法律行為は単独でもOK)
成年被後見人の行為は、常に取り消しが可能。
制限行為能力者③:被保佐人
成年被後見人よりも判断能力が高いとみなされます。
・被保佐人とは、精神上の障害により、事理を弁識する能力(判断能力)が著しく不十分な者で、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者をいう(11条)
・被保佐人を保護する者を保佐人といい、家庭裁判所が保佐開始の審判の際にこれを選任する。
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
【能力】
一定の重要な行為を行う場合には、保佐人の同意が必要。
同意又はこれに代わる許可がない場合は取り消す事ができる。
もし、保佐人が被保佐人の利害を害するおそれがないのに、同意しない時は、
被保佐人は家庭裁判所へ請求する事で、保佐人の同意に代わる許可を得る事ができる
【保佐人の同意が必要な行為】
・不動産の売買契約をする場合: 全て保佐人の同意が必要
・不動産の賃貸契約をする場合: 山林10年以上、宅地5年以上、建物3年以上
・短期賃貸借ならば保佐人の同意を要せずに単独でできる
・贈与、和解または仲裁合意
・贈与の申し込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申し込みの承諾、負担付遺贈を承認
・保佐人には、特定の法律行為(例:土地の売却など)の代理権が付与されています。
制限行為能力者④:被補助人
被補助人は、被保佐人よりも更に行為能力が高いとみなされています。
よって制限される行為は上記の「成年被後見人」や「被保佐人」の中で一番軽いです。
・被補助人とは、精神上の障害により、事理を弁識する能力(判断能力)が不十分な者で、家庭裁判所から補助開始の審判を受けた者をいう。
・被補助人を保護する者を補助人といい、家庭裁判所が補助開始の審判の際に、これを選任
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
【能力】
・「補助人の同意」を必要とする行為だけ単独でできない。
・同意又はこれに代わる許可がない場合は取り消す事ができる。
「制限行為能力者」の行為の効力
上記の4種類の制限行為能力者が行った契約等を、後から取り消すことは可能でしょうか?
覚えておきたいポイントは、
制限行為能力者が、行うことができない法律行為を単独で行った場合
→ その行為を後から取り消すことはできます。
ここの注意点は「取り消す」と「無効」は違います。
取り消されるまでの期間は有効で、契約の行為自体は無効にはなりません。
たとえ成年被後見人が単独で行った売買契約であっても無効までにはできません。
取り消しの範囲
それでは、どこまでの範囲まで、取り消すことができるのでしょうか?
法律行為が取り消されると、その行為は、始めにさかのぼって無効になります。
当事者同士は、お互いに相手から受け取ったものを返還する必要があります。
しかし、制限行為能力者は、現に利益をうけている限度で返還をすれば良いことになります。
下記のように、「取り消し」の場合は、契約発生時から申し立ての期間は、契約は有効とみなされます。
右上図の例ように、もし1/1から3/1まで浪費してしまった金額は、契約の有効期間になるので、返還する必要がなくなります。
例えば、制限行為能力者が土地を売却して3,000万を受け取ったが、そのうち200万を1/1〜3/1までの期間で浪費したとすると、残りの2,800万だけを返還すればよいです。
ただし、この返還の規定には例外があります。
生活費に使用した場合では、全額を返還する義務があります。
これは、生活費は、もともと必要な費用だったので、契約とは関係がないお金なので、返還が必要になるという理屈からです。
善意の第三者であっても泣き寝入り
制限行為能力者を理由とする取り消しは、善意の第三者(相手方も含む)を保護する規定は置いていません。
制限行為能力者の保護に重点をおいていますので、善意(状況を知らない)第三者が泣き寝入りするような場合になる事もあります。
事例)
A(制限行為能力者)所有の土地を、AからB、BからC(善意の第三者)へ譲渡された場合。
Aが制限行為能力者として、 AB間の契約(土地の譲渡)を取り消した場合は、Cが何も知らない善意の第三者であっても、AはCにその土地の返還請求をすることができる。
Cは何も知らずにBから土地を購入している場合でも、Aに土地を返還しなければならない。
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
〇ポイント!
制限行為能力者は、善意の第三者に対しても対抗できると覚えておきましょう。
取消権者(取り消しができる人)
更に制限行為能力者と取引する相手方には、自分から取引の取り消しを申し立てられません。
契約行為を取り消す事ができる者(取消権者:とりけしけんしゃ)は、下記に限られます。
・制限行為能力者本人
・法定代理人
・本人の承継者(例:相続人)
・同意をすることができる者(保佐人、補助人)
〇ポイント!
制限行為能力者と取引した相手方には、取消権はない
上記のような規定は、取引をする相手方にとって極めて不利な状態です。
よって下記のような相手方の立場を考慮した、幾つかの規定が設けられています。
制限行為能力者の相手方の立場を考慮した制度
制限行為能力者と取引をする相手方は、不安定な立場に置かれてしまいます。
そこで、相手方の立場に考慮した、下記の制度があります。
・催告権(さいこくけん)
・取消権の喪失
・法定追認(ほうていついにん)
・取消権の消滅時効
催告権
制限行為能力者の相手方は、1ヶ月以上の期間を定めて、その法律行為を追認するか否かを確答せよ、と催告することができる。
もし期間内に確答がない場合
①その催告が、法定代理人(成年後見人、未成年の親権者または後見人)、保佐人、補助人あるいは、行為能力を回復した後の本人に対してなされた時は、追認したものとみなす
②その催告が被保佐人、被補助人本人に対してなされた場合は、取り消したものとみなす
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
取消権の喪失
制限行為能力者が自らを行為能力者であると信じさせるために詐術(だます手段)を用いて相手方を信用させた場合は、公平の点から、その法律行為を取り消すことができなくなる
具体例)
未成年者が親権者の同意書を偽造したり、被保佐人が保佐人の同意書を偽造して、それを相手方に示すような行為をした場合
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
詐欺などの行為であれば、制限行為能力者であっても保護はされません。
法定追認(追認したとみなす)
法律上当然に追認したとみなす事を法定追認といいます。
ただし、下記の行為を制限行為能力者自身が行ったとしても法定追認になりません。
・全部または一部の履行(売主側の成年後見人が、買主への移転登記に協力)
・履行の請求(売買代金の請求など)
・更改(こうかい)前のと異なる新しい契約等に変えること
・担保の供与(きょうよ)
・取得した権利の全部または一部の譲渡
・強制執行
強制執行とは、国が強制的に行う行為なので、制限行為能力者がそれを行い、相手方が強制執行を受ける事はありません。
取消権の消滅時効
取消権は、追認することができる時期(未成年が成年になる、制限行為能力者が行為能力を回復した時)から
・5年間行使しないと時効により消滅
・法律行為をした時から20年間経過すると消滅
宅建の過去問解説:制限行為能力者「成年後見制度」
以上をまとめましたが、整理できましたか?
次は、実際に宅建士試験では、どのような問題が出るか?過去問をみてみましょう。
Q1.【平成28年 2問-2項】
被保佐人が、不動産を売却する場合には、保佐人の同意が必要であるが、贈与の申し出を拒絶する場合には、保佐人の同意は不要である。
【解答】✖
・被保佐人が、不動産を売却する場合は、保佐人の同意が必要。
・また被保佐人が、贈与の申し出を拒絶する場合にも、保佐人の同意が必要である
〇ポイント! 保佐人の同意が必要な「一定の重要な行為」は覚える項目が多い。
過去問で出題された「一定の重要な行為」から優先して覚える。
Q2.【平成28年 2問-3項】
成年後見人が、成年後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物を売却する際、後見監督人がいる場合には、後見監督人の許可があれば足り、家庭裁判所の許可は不要である
【解答】✖
・成年後見人が、成年被後見人に代わって居住用の建物を売却する場合は、必ず家庭裁判所の許可を得なければならない。
・なお、成年後見人が、成年被後見人に代わって、不動産売買契約を締結する場合、後見監督人がいるときは、その同意を得なければならない。
その許可を得ないで行った契約は無効と解されている。
〇ポイント!
土地売買は家庭裁判所の許可、他に後見監督人がいる場合などは同意が必要
居住用建物・敷地は特に保護されている。取り消しのレベルではなく無効!
このように過去問をみていくと、上記の内容を理解し覚えていれば、解ける問題ばかりです。
宅建の試験までに過去問を多く解いて、記憶が曖昧な部分は確認する作業を繰り返して下さい。
過去問でアウトプットする事が一番記憶が定着します。
成年後見制度の怖いトラブル例
本来は弱者である制限行為能力者を保護するための制度のはずが、実際は問題も発生しています。
下記の記事のようにトラブルが各地で起こっています。
政府が推進する成年後見制度を巡るトラブルが全国各地で続発する中、行政の申し立てで後見人をつけられた母親と、その娘2人が2017年10月中にも、地方自治体を相手取り、国家賠償請求訴訟を起こすことになった。
参照記事:「悪夢のような成年後見制度」役所を訴えた、ある娘の告白」(2017年10月13日)
この記事では、行政が強引に成年後見制度を適用した事で、家族が苦しめられた事例です。
成年後見制度は、一度設定されてしまうと取り消すのが難しく、面倒な手続きが必要です。
「成年被後見人」、「保佐人」や「補助人」も、行為の制限範囲も変わってくるので、病状に合わせた慎重な判断が必要です。
団塊世代(昭和22年〜昭和24年に生まれた人)が80代になる2025年頃には、認知症になる人が700万人になると推計されます。
将来も成年後見の需要はますます高まってきます。
もし、自分の両親や祖父母が成年後見制度を使用する立場になれば、法律の知識が全くないと不安です。
弁護士や行政に任せて、全面的に信頼してしまうと、後で大変な事に巻き込まれてしまう危険性は常にあります。
トラブルに巻き込まれない為にも、法律の知識を身につけて自衛して下さい。
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