今回の宅建士になるための権利関係の過去問解説は「時効」についてです。
時効は、他の権利関係の問題と関連して過去10年間に4回出題されています。
平成27年の宅建試験に出題された問題を解いてみましょう。
問題4
A所有の甲土地を占有しているBによる権利の時効取得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
(1)Bが父から甲土地についての賃借権を相続により承継して賃料を払い続けている場合であっても、相続から20年間甲土地を占有したときは、Bは、時効によって甲土地の所有権を取得することができる。
(2)Bの父が11年間所有の意思をもって平穏かつ公然に甲土地を占有した後、Bが相続によりその占有を承継し、引き続き9年間所有の意思をもって平穏かつ公然に占有していても、Bは、時効によって甲土地の所有権を取得することができない。
(3)Aから甲土地を買い受けたCが所有権の移転登記を備えた後に、Bについて甲土地所有権の取得時効が完成した場合、Bは、Cに対し、登記がなくなっても甲土地の所有権であることを主張することができる。
(4)甲土地が農地である場合、BがAと甲土地につき賃貸借契約を締結して20年以上にわったて賃料を支払って継続的に耕作していても、農地法の許可がなければ、Bは、時効によって甲土地の賃借権を取得することができない。
問題の解答はこちらから
時効の試験に出題されるポイントを本文の解説でおさえていきましょう。
Contents
宅建過去問解説:時効とは
時効と言えば、逃走する犯罪者が刑に問われなくなる時期のイメージがありますが、
民法の時効は、違います。
時効とは、
真実の権利関係と異なる事実状態が長年にわたって継続した場合、その事実状態をそのまま尊重して権利関係を法が認める制度をいう。
(参照;「パーフェクト宅建 基本書」より)
取得時効とは
例えば、Aが Bの所有する土地に建物を建てて、所有者と同じつもりで、長年その土地を占有してきた場合は、一定の要件を揃えれば、土地の所有権が取得できる権利のことです。
この取得時効の特色は、債権は不動産賃借権を除き取得できません。
所有権、用益物権(地上権、地役権、永小作権)などの物権のみになります。
下記の条件を満たせば取得できます。
時効取得のための要件
下記の占有状態である必要があります。
所有権の時効取得のための要件は、所有の意思をもって、平穏かつ公然に他人の物を一定期間、継続して占有することである。
(参照:「パーフェクト宅建 基本書」より)
平穏かつ公然というのは、損害を与えず、公にも認められる占有(使い方)をしている意味になります。
そして取得できるまでの期間は、占有し始めた時期の占有者の意思によって異なります。
善意で過失がない場合:10年
悪意 知らなかったが、過失がある場合:20年
一般的に、不動産取引で、登記簿を調査しないのは、過失があると判断されて取得まで20年かかります。
しかし、登記簿を信頼したが、登記簿の記載自体が間違っていた場合は、過失がないと認定され10年で済むことが多いです。
占有の意味
占有とは、事実的な支配のことで、2種類あります。
自己占有:占有者が直接にするもの
間接占有:賃借人や地上権者など他人を介してするもの
自己でも間接占有のどちらの場合でも、時効取得はできます。
しかし不動産は、賃借権者として占有している場合は、取得時効は認められません。
理由は、借りるということは、最初から所有する意思がないと判断されるからです。
途中で占有人が変わった場合
前の占有者の占有期間を通算して(足して)主張することができます。
下記の場合は、
しかし、悪意の場合の占有を引き継いだ場合は、合計20年間の占有が必要です。
承継者は、その瑕疵も一緒に継承する必要があります。
途中で知った(悪意になる)場合はどうなるか?
途中で他人のものであると、知ったとしても悪意の20年には、ならないです。
最初の時点で知っていたか?で判断されます。
占有を始めた時に知らなければ、善意の占有者と判断され、10年間で済みます。
そして次は、特に序文の問題に関係する消滅時効について説明します。
宅建過去問解説:消滅時効
債権が、消滅時効の典型的なものです。
債権とは、物権と財産権は主なもので、債権者が債務者に対して一定の行為(給付)を請求できる権利のことです。
そして消滅時効とは、
権利を行使しない状態が、一定期間継続すれば、所有権以外の財産権は、すべて消滅時効にかかる。
(参照:「パーフェクト宅建 基本書」より)
普通の債権の消滅時効の期間は10年です。
債権以外の財産権の消滅権 地上権、地役権、永小作権などは、消滅まで20年かかります。
しかし、債権によっては5年や2年の短い物もあります。
短期の消滅時効の例
・飲み屋の代金 1年
・工事の請負代金 3年
ここで注意したいのは、所有権は絶対に消滅時効にならないことです。
所有権は、物に関わる全面的な支配権なので、絶対に強力な権利だからです。
他人が所有権の時効取得をしても、もとの所有権者の所有権はなくなりますが、消滅時効になるわけではありません。
時効の遡及効(効果)
時効は、時効期間の最初に遡って生じるもので、時効期間中に継続した事実状態をそのまま保護する制度です。
これを時効の遡及効といいます。
例えば、時効の進行する期間中に損害を与えられた場合は、請求先は、もとの権利者ではなく、時効所得者となります。
また土地の所有権を取得した者は、時効期間中の収益を、もとの所有者に返還する必要がありません。
時効の起算日
時効の起算日とは、時効の期間が進行を開始する日、期間計算が始まる日のことです。
・取得時効の起算日:物占有または準占有(間接占有のこと)を始めた時
・消滅時効の起算日:権利を行使することができる時
序文のあなたの貸したお金の場合は、確定期限の定める債権の期限到来の時、返済する事が必要になった時期からです。
不確定期限の定めのある債権
将来そうなることは確実だが、まだ時期が不確定な事です。
例えば、〇〇が死亡したら弁済するなどです。
この場合は、債務者が期限到来を知っていたか?は関係ありません。
亡くなったその日から進行します。
債権者が債務不履行の状態と認定されるのは、期限到来の時からです。
よって時効のスタート時には関係ありません。
期限の定めのない債権
期限の定めがない場合は、いつでも請求が可能です。
返済期限を定めていない消費賃借の場合は、金銭においては貸主は、「相当の期間を定めて」返還を求めることができます。
消滅時効は、賃借成立の時から「相当の期間」を経過した時に進行が開始されていると解されています。
時効の援用と時効利益の放棄
意思表示しないと時効は成立しません。
時効の援用とは、
時効によって利益を受ける者、すなわち時効によって権利を取得し、または義務を免れる者が。時効の意思表示を受ける意思を表示することである。
(参照:「パーフェクト宅建 基本書」より)
時効は、永続した事実状態を尊重する制度です。
当事者が援用しない限りは、確定的に権利の得喪 (意味:得ることと失うこと。得失)が生じません。
裁判所は、当事者が時効の援用をしない限りは、時効に関係する裁判を行えません。
時効の援用ができるのは、時効によって直接的に利益を受ける者とその承継人です。
賃借人は、土地について建物所有者の取得時効を援用することはできません。
時効消滅の場合
時効の利益の放棄をするという意思表示は、時効の完成前からはできないです。
理由は、もしお金を貸す時に、あらかじめ時効を放棄するように債権者が債務者に強要する弊害が予想されるからです。
よって、あなたがお金を貸す時は、相手(借り手側)に、消滅時効を使わせないように約束させる事は、できないです。
時効の承認とは
承認とは、時効で利益を受ける者が、時効で権利を失う者に対して、その権利の存在を認める旨を表示することです。
例えば、あなたに借金をしている人が、一部を弁済したり、利息を支払ったり、延期証を差し入れてくる行為です。
「しばらく返済は待って欲しい」と口頭で言うのも承認としての時効は成立します。
時効を中断する方法
時効を中断に関しては、下記の過去問が宅建試験で出題されています。
債権者が支払い督促の申し立てをし、さらに一定の期間内に適法に仮執行の宣言の申立てをしたときは、消滅時効は中断する(民法150条)
(参照:【平成21年 問3-1項】過去問解説より)
催告だけでは、中断しないので注意して下さい。
催告は、6ヶ月以内に裁判上の請求をしなければ、時効の中断の効力を生じない(同法153条)。そして、内容証明郵便による支払いの請求は、この「催告」に該当するので、この支払請求のみでは、消滅時効は中断しない
(参照:【平成21年 問3-2項】過去問解説より)
宅建士試験の時効は下記の要点を押さえてください。
・取得時効では、「所有の意思」と「占有の承継」
・消滅時効は、「時効の起点時」と「援用権者」
宅建過去問解説:取得時効・消滅時効と中断方法
以上、時効について理解できましたか?
序文の問題の解説です。
問題4 正解3
(1)誤り。
20年間「所有の意思」をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、時効により、その所有権を取得する。(民法162条1項)。
しかし、Bは「所有の意思」を有しないから、時効によって甲土地の所有権を取得することができない。
(2)誤り。
所有者の継承人は、自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる(同法187条1項)。
そして、この規定は、相続による承継の場合にも適用される。
したがって、Bは、自己の占有に父の占有も合わせて主張することにより、時効によって項土地の所有権を取得することができる(同法162条1項)
(3)正しい。正解
時効により不動産の所有権を取得した者は、時効の進行中に原取得者から所有権を取得して登記を備えた者に対しては、登記を備えなくても、時効による所有権の取得を対抗することができる(同法177条、最判昭41.11.22)。
したがって、Bは、Cに対し、登記がなくても甲土地の所有者であることを主張することができる。
(4)誤り。
農地の賃貸借契約を締結しても、農地法の許可がなければ、その効力を生じない(農地法3条1項・7項)。
しかし、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、土地の賃借権を時効取得することができる(民法163条、最判昭43.10.8)。
そして、この点は、農地の賃借権の時効取得の場合も同様である。
また、農地法の許可がなくても、農地の賃借権の時効取得は認められる(最判平16.7.13)。
(引用:パーフェクト宅建「過去問10年間」【平成27年 問4】過去問解説より)
宅建過去問の暗記ポイント【権利関係】時効
・所有権は絶対に時効にかからない
・所得の占有に必要な期間は、善意と無過失は10年、悪意と過失は20年
・時効の効果は、時効期間の最初にさかのぼる
・不確定期限の債権の消滅時効の起算日は、期限が到来した時
・時効の利益は、完成前の放棄は不可
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