前回の「借家権」に引き続き、今回の宅建士になるための権利関係の過去問解説は「借家権」の2回目を解説します。
毎年、必ず借地借家法は宅建士試験で絶対に出題されるので、勉強の優先順位は最重要です。
* 前回の記事 「宅建士になるための過去問解説【権利関係】借家権1。転貸の民泊は違法行為か?」
ここで、平成27年度の宅建士試験で出題された借家法についての過去問です。
マンションの賃貸借契約終了に伴う賃貸人の敷金返還債務と、賃借人の明渡債務は、特別の約定がない限り、同時履行の関係に立つ。
正解か誤りか?
また、もし借りている建物が損壊した場合、滅失した部分についての家賃は、減額してもらえるのでしょうか?
建物の滅失した部分の割合に応じ、賃料の減額を請求することができる。
正解か誤りか?
今回の過去問解説は、特に賃貸物件に住む人にとっては、退去時の敷金の返還や賃料の交渉など、日常で身近に関わってくる問題です。
借主の権利を保護してくれる借家権についてマスターして下さい!
Contents
宅建士の過去問解説【権利関係】借家権2
借家権は、借地権との違いはわかりにくいですが、整理して理解しましょう。
借地権には、土地の権利を登記することが可能な地上権と賃借権の2つの権利があります。
一方、借家権とは、借地借家法という借家人の権利が守られる法律で、賃貸契約でも、家主から一方的に追い出されないなど保護されています。
居住用建物の賃借権の内縁者等の承継
借家権は、本人以外の人も承継できるのでしょうか?
下記でみていきましょう。
相続
財産権でもある借家権の場合は、一般的に相続性があります。
内縁者等の承継
借家人が相続人なしに死亡した場合は、内縁者が死亡したものの借家権を継承できる制度があります。
もし、相続を希望しない場合は、死亡したことを知ったときから、1ヶ月以内に賃貸人(家主)に反対の意思表示をしたときは、借家権は承継しません。
この場合の内縁者とは、籍は入れていない事実上の夫婦、養親子として一緒に居住していた者などです。
造作買取請求権
家主の同意を得て建物に付加した造作がある場合は、借家人は借家契約が終了したときに、家主に対して時価でその造作を買い取るように請求できます。
この請求権は、適法で取引された転貸人と賃貸人の間でも準用されます。
また、家主から借家人が買い受けた造作も同じように請求することができます。
しかし、家主が「賃貸借契約が終了したときに、家主はその買取りをしない」と特約をつけた場合は、買い取らずに済みます。
例えば、借家人がエアコンを設置することを家主は認めるが、賃貸借契約が終了すれば、家主は買取りをせず、借家人は自己責任で、エアコンを撤去して出ていくなどです。
もっとも年数が新しいエアコンであれば、そのまま部屋に残置しても問題はない場合が多いですが、残しても家主に買い取ってもらうことはできません。
家賃の増減額請求権
契約で定めた家賃が、下記の理由で、相場よりも不相応になった場合は、家賃を将来に向けて増減する請求ができます。
下記の理由であれば、賃貸人・賃借人どちらからでも請求はできます。
・土地と建物の租税その他の負担の増減
・土地と建物価格変動
・付近の建物の家賃に比べて不相応になった場合
増減額の請求方法
増減額の請求権は、形成権です。
形成権とは、相手の承諾がなくても一方的に成り立つ契約です。
よって、それが行使されれば、直ちに「相当額」まで増額または減額されます。
もし、この相当額で争いがあれば、裁判で決着をつけます。
なお、当事者間で一定期間増額しない旨の特約をした場合は、たとえ経済的な変動があっても、賃貸人はその特約に従わなければなりません。
しかし、いかなる場合でも減額しない旨の特約は、借家人に不利な特約なので、無効になります。
当事者間で協議が整わない場合
家賃の増額について当事者間で協議が整わない場合は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める家賃を支払うことで足ります。
ただし、裁判の判決が確定後、既に支払った家賃に不足があるときは、借家人は、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息をプラスして家主に支払う必要があります。
反対に、払い過ぎていた場合は、家主は、その超過額に年1割の割合の受領の時からの利息を加えて、超過額と一緒に返還しなければなりません。
裁判の前には、調停の申し立てが必要
家賃の紛争は、訴訟を起こす前に、まずは調停の申し立てをする必要があります。
調停委員会の決定に服する旨の合意の制度などは、前回出てきた借地権の「借地における地代等の増減額請求権」と同じです。
修繕義務
賃貸人は、賃貸借の目的物について必要な修繕義務を負う(民法606条1項)
賃貸人は、目的物を常に使用・収益に適する状態に保持する義務を賃借人に追っているからである。
(参照:「パーフェクト宅建 基本書」より)
よって、賃貸人が修繕義務を履行しないときは、賃借人は債務不履行として、その程度に応じて賃料の支払いが拒否できます。
また、賃貸人が賃貸目的物の保存に必要な行為をする場合は、賃借人はこれを拒むことができません。
保存に必要な行為とは、雨漏りなど建物のメンテナンスに必要な修繕です。
しかし、賃借人の意思に反する保存行為に対しては、賃貸契約の解除が可能です。
例えば、保存工事のために長期間住めない場合などは、解除が認められます。
費用の償還
賃借人が支出して、家主から返還されるものには、有益費と必要費の2種類があります。
家主は、有益費は契約の終了時に支払い、必要費は直ちに支払う義務があります。
この償還請求ができる時期が違うことがポイントです。
有益費
有益費とは、目的物の価値を増加された費用のことです。
賃貸借の終了時に、まだその効果が残っている場合に限り、賃貸人はその償還を請求できます。
例えば、部屋に暖炉をつけて、それにより内装の価値が上がったなどです。
その額については、賃借人が支出したものと、賃貸借終了時に現存する額のうち、賃貸人は少ない方の額を選択できます。
必要費
本来は、家主が負担するべき費用を賃借人が代わりに支出した金額を必要費といいます。
例えば、雨漏りの修繕費などは、直ちに賃貸人(家主)に償還請求をすることができます。
敷金
敷金とは、主として借家契約に際して借家人から家主に対して交付される金銭です。
この敷金については、民法、借地借家法には、何らの法律的な規定はありません。
敷金の効力
敷金は不払い家賃に充当できます。
交付された敷金は、いったんは賃貸人の物になり、一切の債務を担保することになります。
この債務とは、将来起こりえる賃料の不払いや損害賠償などです。
家主は、契約期間中でも終了した後でも、もし借家人の賃料不払いがあれば、敷金をこれに充当することができます。
契約の解除には、敷金の交付は関係ありません。
敷金が交付されていても、家主は借主の賃料不払いを理由に契約を解除することができます。
しかし、逆に賃借人(借りている側)から、不払い賃料を敷金から差し引けと主張することはできません。
敷金は、契約終了時に、賃借人に債務があればその額を差し引き、不履行がなければ、全額返還しなければなりませんが、利子をつける必要はありません。
賃貸借契約の終了に伴う賃借人の建物明渡債務と賃貸人の敷金返還債務は、特約がない限りは、同時履行の関係にならないです。
よって同時に引き渡して返還を受けるのではなく、賃借人は、建物を明け渡してから敷金の返還を受けることになります。
家主または賃借人が変更した場合の敷金関係
家主が変更になった場合、当事者間に特約がない限りは、敷金関係は、新家主に承継されます。
もし新家主が、旧家主から敷金を受け取っていなくても、賃借人が建物を明け渡すときは、敷金を渡さなければなりません。
これに対し、賃借人(借りている人)が譲渡などで変わる場合は、特約がない限りは、前の賃借人が支払った敷金は、新しい賃借人には、承継されません。
新家主は、前賃借人に敷金を返還し、新賃借人から敷金を受領することになります。
現状回復費用の敷金からの控除
賃借人が建物を返還するときに、損傷した部屋の補修など現状回復義務を負う場合は、敷金からその補修費用を控除(差し引く)ことができます。
その費用負担を行うには、下記の場合のみになります。
・通常損耗の範囲が賃貸借契約で具体的に明記されている場合
・その旨の特約が明確に合意されている場合
使用貸借とは
借主がある物を貸主から無料で借りて、使用・収益をした後に返還することを約し、その物を貸主から受け取ることによって成立する契約であり、無償・片務・要物・不要式の契約である(民法593条)
(参照:「パーフェクト宅建 基本書」より)
いわばタダで貸してもらえる賃借契約です。
契約の終了
契約は下記の理由で終了させることができます。
・返還の時期が決まっていれば、その時期の到来に終了
・その目的に従った使用・収益の終了時に終了
・返還の時期を特に定めていない場合、使用・収益をするのに足りた期間を経過したときは、いつでもそれぞれの貸主は、契約終了の請求ができる
・借主が使用・収益の範囲を逸脱、また承諾を得ずに第三者へ使用された時、貸主は契約を解除できる
・借主の死亡によって終了。借主の相続人には継承されない。
宅建過去問まとめ:借家権2
「借家権2」の内容は、いかがでしたか?
序文の問題の答えは、誤りです!
誤り。
家屋の賃貸借契約終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定がない限り、同時履行の関係に立たない(最判昭49.9.2)
(参照:【平成27年 問8項1】過去問解説より)
本文にもありましたが、特約がない限りは、通常は明渡し後で敷金が返還されます。
また賃料の減額を滅失した分だけできるについては、
正しい。
賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その消滅した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる(民法611条1項)
したがって、AはBに対し、甲建物の滅失した部分の割合に応じ、賃料の減額を請求することができる。
(参照:【平成28年 問7項1】過去問解説より)
宅建士試験には、下記のポイントも出題されるので、覚えて下さい。
・借家契約では、最短期間の制限はない
・借家権の対抗要件は、建物賃借権の登記か、または建物の引渡しである
・定期建物賃貸借には、一定の要件が必要
・借家においては、借家権の譲渡、転貸について家主の承諾に代わる裁判所の許可の制度はない。
・賃借人が支出した有益費と必要費とでは、その償還請求できる時期が異なる
次の記事では「不動産物件権変動の対抗要件」について具体的に解説します。
これらも宅建士試験に毎年出題される重大箇所なので、ぜひ読んでみてください。
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